光学薄膜とは?

光学薄膜は、光の干渉を利用して色を操作することができるもの(技術)です。メガネの表面についている反射防止膜がその代表で、原理的にはシャボン玉や、真珠、貝殻に色がついて見えるのと一緒です。(それぞれ材料に色がついている訳では無く、光が干渉した結果として色がついています。写真の眼鏡にはLEDライトが映り込んでいますが、映り込み像が「緑色」をしているのはメガネレンズ表面の反射防止膜の効果です。)
 …シャボン玉写真:Wikipediaより/眼鏡写真:当社撮影

色の操作ができる仕組み ~薄膜干渉~

シャボン玉や真珠、貝殻の発色は「構造色」といいます。構造色の原理は光学薄膜と一緒であり、一般的な現象としてイメージを掴みやすいことから、光学薄膜のセミナーを担当させていただく際には構造色の話をイントロダクションとして利用させていただいています。
上の図はシャボン玉の表面で発生する光の反射と干渉の様子を示しています。シャボン玉の厚さが光の波長λに対して1/4に相当する厚さである場合には、シャボン膜の界面(表と裏の2面)で生じた反射波は「強め合う干渉」となり反射が増加する。これに対してシャボン玉の厚さが光の波長λに対して1/2に相当する厚さである場合(同じ厚さのシャボン膜に対して、波長が短くなった場合=図参照)には、シャボン膜の両面で反射波は「弱めあう干渉」となる。つまり、膜の厚さと光の波長との関係によって「光の反射率が変わる」ということが判ります。

次の図では、同じシャボン膜に対して、赤い色はλ/4に近い場合に、他の色はλ/4よりも波長が短くて反射が弱くなっている様子を示しています。この図にあるような状態では、赤色の反射が強いのでシャボン膜は「赤っぽい色」になるでしょう。

シャボン膜の色づきは、実際にはシャボン液の濃さの違いによりシャボン膜の屈折率が違っていたりも影響しますし、上記は正確な説明とは言えません。ただこの説明でも、屈折率の異なる膜によって「色が操作できる」ことの「物理的なイメージ」は正しく理解できるだろうと思います。
光学薄膜の正しい理解と利用には、単純だけれどもこのような物理的イメージを持つことが役に立ちます。

さまざまな光学薄膜

光学薄膜には反射防止膜の他にも、様々な種類があります。
反射防止膜とは逆に反射を増やすものや、ある波長の光をカットするもの、ある波長の光だけを透過するもの、色を分離するもの、光量を特定の比率で分けるものや、光の特性(たとえば偏光)で分離するものなどがあります。(透明な薄膜を積層するものだけでなく、金属を使ったミラーも光学薄膜です。)
ここで詳細な記述は行いませんが、それぞれ必要な機能を得るために利用されており、無くてはならないものです。(セミナーでは、光学薄膜が各種の機器においてどのように利用されているかも説明をさせていただいています。)

光学薄膜の構造

光学薄膜は「薄膜」の名の通り、基材平面上に膜として形成されます。もちろん1層だけの光学薄膜もありますが、様々な機能を得るためには、複数の薄膜を積層します。
いわゆる多層膜フィルターでは、屈折率の異なる透明な薄膜(たいていの場合は高い屈折率を持つ薄膜と低い屈折率を持つ薄膜と)を繰り返し積層します。この屈折率の異なる薄膜の界面で光が反射し、透過した光とも併せて多重の干渉をした結果として、様々な光学特性を実現することができます。

光学薄膜の特殊性(難しさ)

光学薄膜における1層あたりの膜の厚さは、上の構造図にあるように30~200nm程度(通常は50~100nm程度)です。この厚さは、他の分野における薄膜と比較するときわめて薄い部類に属します。たとえばカットフィルターでは、膜のばらつき(立ち上がり波長)を±数nmの範囲に抑えることが求められますが、これを1層あたりの膜厚ばらつきに換算すると(たとえば立ち上がり波長500nmに対して±3nmの精度を求められるとすれば、3/500=0.6%だから)、単純には「膜の屈折率および厚さを±0.6%の範囲に安定させる必要がある」ということになります。これは屈折率でいえば「屈折率2.1に対して±0.013以下」の安定性を求めることになり、厚さでいえば「1層あたり50nmの薄膜に対して±0.3nm以下」の安定性を求めることになります。
光学薄膜の特殊性(難しさ)は、1層あたりの膜の薄さに加えて「求められる製造精度」が極めて高い点にあります。このことから、光学薄膜の設計者は「製造方法への理解」が欠かせませんし、製造者は「製造精度を維持するための努力・研鑽」を欠かすことができません。

とはいえ技術は着実に進化しており、上記光学薄膜の特殊性(難しさ)も薄れてはきました。光学薄膜設計においては(弊社が販売代理店を務めるOTF Studioのような)優秀な自動設計ソフトも利用できるようになって、以前は技術者のノウハウなしには出来なかったことが出来るようにもなってきています。近年(特にイオンプロセスが一般化してから)は製造設備の性能が大きく向上しており、以前には無理があるとして避けたような設計でも所望の特性を得ることが出るようにはなってきています。
とはいえ、自動設計ソフトのOUTPUT(設計)が保有する設備で作れるかを判断するのは技術者であり、優秀な設備も原理原則を知ったうえで無いと使いこなすことができません。今現在も、光学薄膜の特殊性(難しさ)は多く残されており、原理原則を理解することの大切さは薄れていません。

光学薄膜技術の発展に当社が果たすべき役割

弊社の光学薄膜技術は、2000年代初頭のイオンプロセスが使われ始めた頃、まだ製造設備が安定していなかった時代に、200層を超える高精度・高ODのフィルターを「設計通りに如何に安定して作るか」を寝ても覚めても考えた時の知識と経験がベースになっています。当時は特殊設計の実現や製造設備を安定するための工夫を「やり続けた」ことは勿論のこと、最終的に「安定して作るには現場力の向上がどうしても必要」として現場向けに多くの教育資料を作成、勉強会を実施しました。(この勉強会は最終的に開発部門向けにも対象を広げ、当時の製品向上に寄与したと自負しています。)

弊社は「これらの保有技術および教育資料の蓄積」を新技術開発や新市場創生、次世代の技術者教育などに活かすことで、光学薄膜技術分野および同業界の発展に貢献したいと考えています。もしも我々の技術が役立てられる場面(技術課題の解決や新市場開拓、現場力向上、若手への教育など)があれば技術支援を行います。

弊社は以下の業務を通じて光学薄膜技術の発展に貢献します。

それぞれ必要のある際はぜひともお声がけください。(Mail to : tadashi.watanabe@douhagiken.com)

光学薄膜関連セミナー/講演の実績,予定(2023年10月以降)

  • 光とレーザーの科学技術フェア 光学薄膜セミナー(パシフィコ横浜/2023年11月9日) 「効果的な利用のための光学薄膜の基礎知識」
  • 光学薄膜研究会 2024年度第1回研究会会合 (機械振興会館/2024年4月23日) 「いまさら聞けない光学薄膜の基礎知識」
  • AndTech社セミナー(@Web有料セミナー/2024年7月31日) 「付加価値創出のための光学薄膜の基礎知識 ~製造方法、膜厚のコントロールおよび特性評価~」
  • 【予定】InterOpto2024/光とレーザーの科学技術フェア 光学薄膜セミナー(パシフィコ横浜/2024年10月31日) 「効果的な利用のための光学薄膜の基礎知識」
  • 【予定】AndTech社セミナー(@Web有料セミナー/2024年11月22日) 「(仮題)光学多層膜の製造方法・膜厚コントロール・特性評価および付加価値創出に向けた各種用途展開」

これらセミナーの詳細については、別ページにて公開しています。